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名古屋高等裁判所金沢支部 平成8年(ラ)4号 決定 1996年3月18日

主文

一  原決定を取り消す。

二  抗告人が本決定告知後三日以内に相手方東洋ファルマー株式会社のために金二〇〇万円の担保を立てることを条件として、同相手方は、平成八年三月二六日が経過するまで、別紙物件目録第一記載一の物件を製造し、販売してはならない。

三  抗告人が本決定告知後三日以内に相手方株式会社陽進堂のために、金二〇〇万円の担保を立てることを条件として、同相手方は、平成八年三月二六日が経過するまで、別紙物件目録第二記載一の物件を製造し、販売してはならない。

四  抗告人のその余の申立てをいずれも却下する。

五  訴訟費用は、原審、当審とも相手方らの負担とする。

理由

第一  当事者の申立て及び主張

一  抗告の趣旨

1  原決定を取り消す。

2  相手方東洋ファルマー株式会社は、別紙物件目録第一記載一の物件を製造し、販売してはならない。

3  相手方東洋ファルマー株式会社の前項記載の物件及びその製剤原料である別紙物件目録第一記載二の物件に対する占有を解いて、富山地方裁判所の執行官に保管を命ずる。

4  相手方株式会社陽進堂は、別紙物件目録第二記載一の物件(以下「別紙物件目録第一記載一の物件とあわせて「相手方ら医薬品」という。)を製造し、販売してはならない。

5  相手方株式会社陽進堂の前項記載の物件及びその製剤原料である別紙物件目録第二記載二の物件に対する占有を解いて、富山地方裁判所の執行官に保管を命ずる。

二  抗告の理由

抗告人作成の「仮処分命令申立却下決定に対する抗告状」と題する主張書面の記載を引用する。

第二  事案の概要

本件事案の概要は、原決定事実及び理由の「第二 事案の概要」記載のとおりであるからこれを引用する。

第三  当裁判所の判断

一  被保全権利について

本件疎明資料によると、相手方らは、平成六年法律第一一六号特許法等の一部を改正する法律による改正後の特許法(以下「改正法」という。)の公布の日である平成六年一二月一四日より前に甲特許権にかかる発明の技術的範囲に属する塩酸チアプリド製剤につき試験を実施したうえ、薬事法に基く承認申請を行ったことが一応認められる。そうすれば相手方らの右試験及び製造等は相手方ら医薬品販売のためになされたものであるから「業として」行われたことは明らかであり、右は抗告人の甲特許権を違法に実施したものと認められる。相手方らには改正法附則五条二項が適用されないといわざるを得ない。

そうすると、争点2について判断するまでもなく、相手方ら医薬品は抗告人の甲特許権を侵害するものとして、抗告人は、相手方らに対して、債務者医薬品の製造、販売の差止ができる。

二  保全の必要性について

抗告人が甲特許権を藤沢サンテラボ株式会社に実施許諾し、同社は藤沢薬品工業株式会社に右特許権の実施品の製造販売を委託し、同社が右委託に基き塩酸チアプリド製剤を製造し、「グラマリール」との商品名で販売していることは前記(原決定説示)のとおりであるところ、相手方ら医薬品の製造販売により、抗告人が回復しがたい損害を被るおそれがあると一応認められる。しかるところ、甲特許権の終期が差し迫っていることからすると、抗告人の相手方らに対する本件仮処分命令申立てについては、相手方ら医薬品の製造、販売の差止に限って肯認するのが相当である。

三  よって、抗告人の本件仮処分命令申立てについては、右の限度で認容すべきところ、これを却下した原決定は相当でないからこれを取り消した上、相手方らに対し、各金二〇〇万円の担保を立てることを条件に、本件仮処分命令の申立てを右の限度で認容し、訴訟費用は原審及び当審とも相手方らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 笹本淳子 裁判官 宮城雅之 裁判官 氣賀沢耕一)

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